おにぎり (Onigiri)

おにぎり(御握り)とは、炊いた米に味をつけたり、具を入れたりし、三角形・俵形・球状などに握ってまとめた食べ物である。

他におむすび(御結び)や握り飯、単に「むすび」、「握り」と呼ばれることもある。
他、地方や家庭によっていくつもの呼び方がある。
→呼び方

作り置きが可能であり携行性に優れることから、日本では古くから今に至るまで弁当の主食として重宝されていた。
現在は常食としてのおにぎりが主流となりつつあり、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでも常温で保存が利かないおにぎりが販売されている。
近年、日本の大手コンビニエンスストアが海外進出をすると同時に、世界各国で日本のおにぎりが食べられるようになってきた。

概要

元々は米飯の残り飯の保存や携行食として発達したおにぎりであるが、最近は食べやすさを加味し、保存性・携行性を重視しなくなっている。

携行食としてのおにぎり

作り方としては、なるべく細菌が繁殖しない状態を維持する事に尽きる。
ポイントは時間・表面積・温度・湿度である。
以下、その注意点を記す。

炊き立ての熱いご飯を握る事。
時間が経ったご飯は、細菌(特に毒素排出型細菌の場合)の数が増えており再加熱したからといって長時間携行するには安心できない。

なるべく空気に触れる部分を少なくするため、なるべく硬く握る。
もしくはある程度硬く握った冷却済み(後述)のおにぎりに海苔を最初から全面に貼る。
現在の市販おにぎりが携行食として不適切なのはこの部分も関係している。

塩をおにぎりの表面全体に満遍なく付着させる。
過剰な塩分や糖分でのコーティングは、細菌繁殖を抑える効果がある。
現在の減塩おにぎりでは効果がうすい。

具材は保存性に優れる物、殺菌作用の強い物が最適である。
殺菌作用のある具材を入れたおにぎりは、具材の無いおにぎりより保存性が多少だが高まる。

包装する前に中まで十分に冷却する。
冷蔵庫などの冷却では表面が冷えるだけの場合があるので注意する事。
温度を下げる事によって、細菌繁殖を抑える効果がある。

おにぎりから出る湿度で食材表面を湿らせない為、通気性に優れる物か吸水性に優れる物で包装する。
湿度が一定以上あると細菌繁殖が活発となる。
なるべくおにぎり表面の湿度を下げる事が重要である。

保存場所は、冷暗で通気性に優れる場所が最適である。

食事としてのおにぎり

現在は色々な場面でおにぎりが食されるようになった。
その大部分は携行性より美味しさを求めている。

口に含んだ食感が柔らかいものが好まれている。

具材は多種多様なものがある。

塩分の強いおにぎりは敬遠される傾向にある。
昨今の減塩政策と職種で変る発汗量が関係している。

海苔は好みで巻かれる。
その巻かれ方も各種存在する。

呼び方

地方や家庭によって呼び方が異なる場合がある。

広島県広島市を中心とする地方では、一般家庭でも外食産業でも「むすび」(ないしは「おむすび」)と呼ぶ傾向にあるが、無論「おにぎり」でも通じる。
「握りまま」(青森県)、「おにんこ」(栃木県)といった方言もある。
おむすびというのは、元は御所の女房言葉であった。
日本でおにぎりと言えば三角に握ったものというイメージが強く、「おにぎり型」というように三角形をした物のことを指す代名詞としてよく例えられる。
余談だが、唯一ロータリーエンジンを製作している広島の自動車メーカのマツダでは、エンジン内の「ローター」を「おむすび型」と称している。

おにぎりとおむすびの違い

おにぎりとおむすびは、語源・形状ともに異なるという説も存在する。
おにぎりとは形を問わず飯を握って作ったものであるが、おむすびとは三角でなければならないというものである。
古事記に登場する三柱の神:天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)・高御産巣日神(たかみむすびのかみ)・神産巣日神(かみむすびのかみ)は、天と地が分かれて初めて現れた神様の名前である。
この高御産巣日神と神産巣日神に共通の「むすび」(産巣日)という言葉だ。
この「むすび」とは天地万物を生み出す神霊、またはその霊妙な力を意味しているという。
そして当時の日本人は山を神格化し、その神の力を授かるために米を山型(神の形)をかたどって食べたものがいわゆる「おむすび」の始まりだと言われている。

おにぎりとおむすびの違いは他にも諸説があり、上記とは逆におにぎりは三角型で、おむすびは俵型という説もある。

握り飯またはおにぎりの方が歴史の古いという説もあり、それの女房言葉、もしくは丁寧語としておむすびという説もある。
おにぎりは「鬼を切る」という言葉に似ている為、魔よけの効果があるとの説もあり、鬼退治に白飯の握り飯を投げつけたなどの民話もある。
また、おむすびは「むすぶ」という言葉に、霊を包み込む、土地を守る産土神(うぶすな)を指すという説もある。

なお、ハワイなど明治期に多くの移民が移り住んだ諸外国では、おにぎりではなく「MUSUBI」という呼称が一般的となっている。
これは、広島などおむすびという呼称が優勢である地域の出身者が多かった為であろうとも考えられる。

製法

地方や家庭によって多様な方法があると思われるが、すぐ食べる事を前提とした現在において最も一般的と考えられる方法を示す。

ぬるま湯に浸して軽く水をきった手に塩を軽くまぶし、蒸らしたご飯を1個分のおにぎりに見合う量だけ取る。

まずは外側を軽く固める程度に握り、中央に具材を埋める。

3、4回に分けて回しながら均一に力をかけて握り、形を整える。
柔らかすぎると崩れるが、固く握りすぎると食感が悪くなるので注意。

夏場は手についた黄色ブドウ球菌などの細菌が繁殖する恐れがある為、衛生上の予防策も兼ね、ラップに包んで握るのもよい。
また、プラスチック製の「おにぎりの型」が生活雑貨店等で市販されている。
これは、ご飯を詰めるだけで簡単におにぎりの形に仕上がる器具である。

作法

食べ方としては、歯形が付かないように端から食べて行き、水平に削って行くのが作法とされる。
手で直に持って口に運ぶのが基本ではあるが、弁当などに入っている俵型のものは箸で食べるのが望ましい。

おにぎりの形態

おにぎりを構成する主な要素は、形・飯・具・包みである。


形は他にも様々なものが存在する可能性が考えられるが、通常よく見られるのは次のようなものである。

三角形

- 高さが低い三角柱。

俵形

- 角のない円柱形。

丸形

- ゴーダチーズや鏡餅のような形。

球形

- 方向性がないので握りやすい。
(手毬型)

四角形

- 高さが小さい直方体。
台湾などで見られる。
押し寿司に近い。

特に決まりというものはないが、大方の慣習として、次のような使い分けが存在する。

三角形

- 普通の弁当。

俵型

- いわゆる「ハレ」の席での弁当。

球形

- 炊き出し。


日本で主食として食べられる米・ジャポニカ種で炊いたご飯は、冷えてもデンプンが硬くなりにくい。
その為、他の種と比べておにぎりに向いている。
コンビニエンスストアなどで販売されているおにぎりの中には、「冷めても美味しい」性質が一段と高い低アミロース米が用いられる事も多いが、家庭で作られる物は、普段食されているうるち米を炊いた物とするのが普通である。

また、白飯を握ったのちに醤油や味噌を塗り、炭火などで香ばしく焼く「焼きおにぎり」と呼ばれる調理法もある。


白飯と相性が良く味の濃い物(防腐の意味もある)が多い。
梅干しや鰹節・佃煮などは昔からの定番である。
炊き込みご飯や混ぜ込みご飯のようにご飯自体に味が付いている場合は、具を包み込まないのが一般的。

具は中央に埋め込まれるのが一般的だが、スパム・鱒寿司・マツタケなどのように表面に張り付けるような物もある。

包み

大抵は海苔であるが、変わった食材で包まれたもおにぎりも存在する。
長野県では野沢菜、富山県や石川県、福井県(昆布の一大加工産地)ではとろろ昆布、和歌山県では高菜の漬物など、地域性が出る物や、チキンライスを薄焼き卵で包んだオムライス風おにぎりなどである。
植物の葉には雑菌の繁殖を抑える物もあり、保存性を高める一面もある。

海苔での包み方も各種存在する。
ここでは三角形のおにぎりを前提として包み方を記す。

おにぎり全面に満遍なく包む方法

側面の1面のみから前後面に渡す形で貼る方法

側面一周に巻く方法

一方、包みを施さずにふりかけ類をまぶすという技法もある。
ゴマ(黒または白)・田麩・のりたま・ゆずこしょう等が使用される。
具を入れない「塩むすび」では、少量の胡麻を表面に振る物もある。

包装

主にラップやアルミ箔、和紙などが使用される。
おにぎりには色や匂いが移りやすいので、色落ちするもの、臭気のあるもの(金属臭も含む)は避けたほうが良い。

竹の皮

かつては、竹の皮におにぎりを包むのが一般的であった。
竹の皮は殺菌作用や適度な通気性がある為、ラップやアルミ箔よりも保存性に優れている。
しかし、大量の安定供給や価格、ひいては入手性といった利便性で劣った為、近年ではあまり用いられなくなった。

日本における歴史

弥生時代後期の遺跡であるチャノバタケ遺蹟(石川県鹿西町、現・中能登町)から、1987年12月におにぎりと思われる米粒の塊が炭化したものが出土している。
この炭化米からは、人間の指によって握られた痕跡が残されており、当初最古のおにぎりとして報道された。
その後の研究では、炊かれて握られたものというよりは、おそらく蒸されたのちに焼かれたものとされ、ちまき(粽)に近いものとされている。
また、北金目塚越遺蹟(神奈川県平塚市)からもおにぎり状に固まった炭化米が発見されている。

おにぎりの直接の起源は、平安時代の「頓食」(とんじき)という食べ物だと考えられている。
この頃のおにぎりは楕円形をしていて、かなり大型(1合半)で、使われているのは蒸したもち米であった。

鎌倉時代の末期頃からはうるち米が使われるようになった。
おにぎりと言えば海苔だが、板海苔が「浅草海苔」などの名で一般にも普及したのは元禄の頃よりで、栄養もあり、手にごはんがくっ付かない便利さも相まっておにぎりと海苔の関係が出来た。

現在のおにぎり

家庭で作られるおにぎりのほか、コンビニエンスストア(以下CVS)やスーパーマーケットなど市場において販売されるおにぎりがある。

家庭で作られる物は、遠足での昼食など携行食という元来の考えに基づいた用途以外でも、作り置きの昼食といったような形でも日常的に食べられる。
弁当に入れられる事も多い。
形状も様々で、俗に「爆弾」と呼ばれる大きな球形に握り海苔を巻いたおにぎりもある。
作り方によって保存性が変る。

一方、CVSやスーパーマーケットなどで販売されるおにぎりは、その多くは食品製造工場の機械で大量生産されている。
個別包装されているものと2個~数個がパック包装されているものとでは形態が異なり、個別包装のものは海苔を内部フィルムで本体であるご飯から隔離し、湿気から保護してある「手巻き海苔」タイプであることが多い。
この保護フィルムは食べる時に簡単に手で抜き取れるよう工夫が凝らしてあり、いつでも巻きたての、パリパリとした海苔の食感が楽しめる。
通常は短時間で消費される事を前提としており、保存方法も冷蔵指定で数日以内の消費期間が明記されている。

CVSが定着し始めた1980年代中頃、おにぎりの開封方法は各社で規格が異なり統一されていなかった。
その後、上部の尖った部分のフィルムをひねって(あるいは切って)開け、中のフィルムシートを引っぱって出すパラシュート型と呼ばれるタイプが、シノブフーズにより発案、「ひっぱるだけのおにぎりQ」というキャッチフレーズで発売された。
しばらくはこの方式も多く採用された。
しかしこの場合、慣れない人は中のシートを引っ張りだす際に上の方だけを持ってしまい、米飯が中のフィルムに残る。
そういった理由などから、現在では上部からカットテープのラインに沿ってフィルムを回して左右に分けて開けるセパレート型と呼ばれるタイプが主流となっている。
しかしこのタイプでも、左右のフィルムの隅に海苔が破れて残ることも多く、また外装及び内装フィルムなどが散らかりゴミも増えることなどから、完全な解決策ではないという消費者の意見もある。
そのため海苔が残らず破けないパラシュート型の復活を望む声も少なくない。
なお、ローソンは2004年に「手巻四角型包装」と称する海苔をUの字に曲げただけのものを発売したが、かえって剥きにくいという声もある。

コンビニエンスストアやスーパーマーケットのお弁当コーナーを支える商品としておにぎりは重要視されており、特にコンビニエンスストアでは各社ともに熾烈な、おにぎり新商品開発合戦・顧客獲得合戦を繰り広げている。

沖縄県や北海道など、一部の地域では、コンビニエンスストアでおにぎりを購入すると、店員から「温めますか?」と聞かれることがある。

また、おにぎりに特化したファーストフード的な販売店・外食店も存在する。

外国におけるおにぎりの形態

日本と同じ米作地帯である中華人民共和国、台湾、大韓民国、タイ王国の一部などでもおにぎりは作られる。
しかし、中国や韓国では「飯はあたたかい状態で食べるもの」という意識が強く、おにぎり等の冷や飯というものに対し「下賤な者が食べる物」「やむを得ない場合の携行食」というイメージが強く根付いており、中国では「"飯糰"」(飯団子の意)、韓国では「こぶし飯」などと呼び、日常的に食べられることはまずなかった。
中国福建省には「草包飯」(ツァオバオファン、cǎobāofàn)というおにぎりの一種があるが、これはご飯の中に肉、ソーセージ、シイタケなどを具として入れ、これらを編んだ草の袋に詰め込んで携行するというもので、やはり日本人がイメージするものとはかなりの開きがある。
また、タイでは通常おにぎりに不適なインディカ米を主食としているが、もち米を主食とする東北部では球状にまとめた米飯を草の葉に包んで携行するという習慣が伝統的に見られる。

台湾では駅弁や寿司なども含め日本の食文化が広く知られていることもあり、おにぎりに対して下賤なイメージは以前程ない。
現地で売られているおにぎりは日本のものとは異なり、もち米で作られている場合がある。
具材も甘めの豚肉田麩や揚げパンなど、日本のものとは少々趣が異なる。
最近では四角状で通常の1.5倍程度の大きいものが人気がある。

日系企業のコンビニエンスストアが台湾や上海市などに上陸し普及するようになると、現地で日本式のおにぎりが人気を博す。
これを受けて、日本の米に近い品種の米を使ったおにぎりが現地工場で製造され販売されるようになった。
韓国でもコンビニエンスストアの三角のおにぎりの人気が出てきている。

一方、ハワイや沖縄県では、スパム(ランチョンミート)を具としたおにぎりが「スパムむすび」「ポーク玉子おにぎり」(おにポー)などという名で販売されている。
オーストラリアなどでも、おにぎりがファーストフードのメニューとして扱われているというケースもある。

[English Translation]