コンブ (Kelp)

コンブは、不等毛植物門褐藻コンブ目コンブ科に属する海藻である。

食品として指す場合などには昆布やこんぶの表記が好まれる。
生物学的には和名として「コンブ」を用いるが、正確には「コンブ」という種は存在しない。
マコンブやリシリコンブ、ミツイシコンブなどのように、コンブ科植物の種を標準和名として用いる。

生態

コンブ科には多くの属があり、マコンブなどが属するコンブ属をはじめ、ガゴメなどが属するトロロコンブ属などがある。
さらに、同じコンブ目に属する近縁なものとしては、ワカメなどが属するアイヌワカメ科や、コンブの原始的な形といわれるツルモ科などがある。

コンブは、日本では北海道沿岸を中心に三陸海岸などにも分布する。
一般的にコンブ科植物は寒流の親潮海域を代表する海藻であるが、アラメやカジメのように暖かい海に生育するものもある。
食用海藻であるだけでなく、大きな藻場を形成し、多様な生態系を保つ働きもある。

コンブは胞子によって増殖する。
コンブの胞子(大きさは5マイクロm程度)は2本の鞭毛を持ち、海中を泳ぐことができるので特に「遊走子(ゆうそうし)」と呼ばれる。
遊走子はコンブの表面から放出され、海中の岩などに着生する。
着生した遊走子は発芽して「配偶体」という微小な植物体になる。
1個の遊走子から1個体の配偶体ができ、雄と雌の配偶体がある。
雌雄の配偶体それぞれに卵と精子が作られる。
この卵と精子が受精し、生長する。
受精卵が生長すると巨視的な「胞子体」、つまり我々が目にするお馴染みのコンブとなる。

漁業

日本のコンブ生産量は約12万トン(平成17年 生重量)。
生産量全体に占める養殖物の割合は約35パーセント(平成17年)。
天然物の生産量の95パーセント以上を北海道が占める。
また、中国でも80万トン前後が養殖されている。

北海道の函館市沿岸ではマコンブの養殖が盛んに行われている。
最近は岩手県や宮城県、瀬戸内海などでも養殖されるようになった。
マコンブは2年生のため、その養殖には2年の時間と手間が必要である。
そのため2年栽培のものに近い質を目指した1年の促成栽培もある。
また、産業上重要種であるミツイシコンブ、リシリコンブ、オニコンブに関しても、その養殖法は確立されている。
その他の種に関しては天然の現存量が多い、もしくは前述の種より利用価値が低いことから、養殖法が確立されていない。
しかし、近年その価値を認められつつあるガゴメが栽培され始めている。

コンブの収穫は、小舟から昆布の根元に竿を差し入れねじり取る。
海岸で押し寄せてきたコンブを拾ったり、鈎でたぐり寄せる方法もある。
次に、小石を敷き詰めた干場に運び並べて干す。
1~2回裏返しにし、まんべんなく乾燥させる。
乾燥しすぎると折れやすくなるため加減が必要である。
乾燥時間は半日程度である。
この間に雨に当たると商品価値はなくなる。
よって天気予報で雨が確実な日は出漁を見合わせることもある。
天日ではなく乾燥機で干す方法もあり、品質は落ちる。
濃霧や日照不足などの理由で乾燥機の使用頻度が多い地域もある。
コンブ干しは短期決戦のため、干し方専門のアルバイトが募集されることもある。
コンブ漁場の近くに番屋を張り寝泊まりする地域も珍しくない。

産地と種類

コンブの主な産地は北海道である。
特に真昆布、羅臼昆布、利尻昆布、日高昆布(三石昆布)、長昆布が知られ、先頭のものほど高級品として知られる。

マコンブ Laminaria japonica(真昆布)

主に津軽海峡~噴火湾沿岸で獲れる道南産のコンブ。
非常に多くの銘柄と格付がある。
旧南茅部町周辺(現在は函館市)に産する真昆布が最高級品とされ、「白口浜」という銘柄で呼ばれる。
そのほか旧恵山町周辺で産する黒口浜、津軽海峡の本場折、それ以外の海域で取れたものを場違折などの銘柄に分ける。
市場価値もおおよそこの順番となる。
銘柄内でも品質により数段階の等級に分けられる。
だし汁は上品で透き通っていて、独特の甘味がある。
大阪ではこの味が好まれ、だし昆布といえば、大抵この真昆布を用いる。
また、他の用途としておぼろ昆布、白髪昆布など薄く削った加工品がある。

オニコンブ Laminaria diabolica(羅臼昆布)

真昆布と並ぶ昆布の最高級品である。
濃厚な味のため、関東地方ではだし昆布として、この羅臼昆布が好まれる。
色は茶褐色をしており、多少昆布独特のえぐみがある。
北陸の富山などは一大消費地である。

リシリコンブ Laminaria ochotensis(利尻昆布)

真昆布や羅臼昆布に次ぐ高級品である。
味は前者より薄いが、澄んでおり、やや塩気のある、上品なだしが採れる。
そのため、懐石料理では重宝される。
とりわけ京料理には欠かせない。
京都では最も一般的で、高級とされるだし昆布である。

ホソメコンブ Laminaria religiosa(細目昆布)

渡島半島の松前~留萌を主体とした日本海沿岸で獲れる昆布。
ほかの昆布と異なり寿命が1年であるため、1年目で刈り取られる。
切り口がどの昆布よりも白いために、おぼろ昆布、とろろ昆布に加工されることが多い。
以上の4種は分布域が連続しており、遺伝的距離も非常に近く種間交雑が可能である。
種といえるまでの分化が起こっていないと考えられる。

ミツイシコンブ Laminaria angustata(日高昆布、三石昆布)

太平洋岸、日高地方で獲れる。
早く煮え、非常に柔らかくなるので、昆布巻き、佃煮、おでん種など、昆布そのものを食べる料理に適している。
なお、昆布だしにさほど拘らない関東地方や一般家庭ではだし昆布として用いることもある。
しかしだしを採ろうとすると青白く濁るので、関西の料理屋ではまず用いない。

ナガコンブ Laminaria longissima(長昆布、浜中昆布)

釧路市地方で多く獲れるコンブ。
全長15mにも及ぶ。
生産量は最も多いが、旨味成分が少ないために一般向けの廉価品。
だが、沖縄県周辺では古くから野菜代わりに重宝され、最も一般的な昆布である。
日高昆布同様、柔らかいために一般では昆布巻きなどに用いられる。
さらに切り刻んだものをそのままサラダ感覚で食べたりするほか、豚肉との相性が非常に良いため、炒め物にしたりする。
ミツイシコンブと遺伝的距離が近く、本種をミツイシコンブの変種とする説もある。

ガゴメ Kjellmaniella crassifolia(籠目昆布)

葉(正確には葉状部という)の表面に籠の編み目のような龍紋状凹凸紋様があることからこの名を持つ。
北海道函館市の津軽海峡沿岸~亀田半島沿岸(旧南茅部町)~室蘭市周辺(噴火湾を除く)、青森県三厩~岩屋、岩手県宮古市重茂、サハリン南西部、沿海州、朝鮮半島東北部に生育する。
水深10~25mに多く分布する。
浅い側ではマコンブと混じって分布するため、昔は雑海藻とみなされていた。
最大で長さ2mほどになり、寿命は3年から5年と考えられている。
ダシを取る用途には使われず、商品価値が低かった。
しかし「フコイダン」という粘性多糖類が他のコンブよりも多量に含まれ、それがいわゆる機能性成分として作用するらしいことが分かり、価格が急騰した。
これまではもっぱら天然に分布するものが採取されていた。
しかし生産量は一時期の10分の1まで落ち込んだ。
また、需要の高まりもあることから養殖技術の確立が望まれている。

主な陸揚げ漁港

2002年度(平成14年)

第1位

- 大舟漁港(北海道)

第2位

- 散布漁港(北海道)

第3位

- 気仙沼漁港(宮城県)

第4位

- 厚岸漁港(北海道)

第5位

- 尾札部漁港(北海道)

食品利用

昆布は、主に乾燥させて出汁をとるために日本料理では幅広く使われる。
ロシアでは「海のゴミ」と扱われているため、それを好んで食べる日本人は不思議がられるという。
また、おぼろ昆布やとろろ昆布にもする。
近年では酢こんぶやおしゃぶり昆布としてお茶請け・おやつにもなっている。
北海道では、湯通しした若い昆布を刺身昆布として食べる習慣がある。
市販の「早煮昆布」は棹前昆布、日高昆布、真昆布からつくられる。
これらの若く薄いものをボイルして干したものである。

統計局の家計調査によると、青森市、盛岡市、富山市が昆布消費量の多い都市(平成15〜17年平均:1世帯あたり)である。
全国平均の1.4~1.8倍を消費している。
沖縄県那覇市は7位(全国平均の1.1倍)である。
沖縄県はかつて日本産昆布を中国に輸出するための中継地点であったことから、昆布を利用する食文化が生まれ昆布消費量が多かった。
しかし近年は若者の伝統食離れで消費が減少している。
昆布つくだ煮の消費量が多い市は福井市、大津市、富山市で、これに京都、奈良など近畿地方の都市が続く。
近畿地方では古くから北前船によって昆布が多く流通した。
独特の昆布消費文化と加工技術が存在するため、つくだ煮消費量が多い。

昆布は体に良い食品として知られている。
特に豊富な食物繊維や鉄分、カルシウムなどが含まれており健康食品として人気が高い。
池田菊苗が1908年古来から使われる昆布の旨み成分がグルタミン酸であることを発見した。
これがうま味調味料の味の素となった。
他にも、昆布には人にとって必須元素であるヨウ素を多量に含有している。
しかしヨウ素を多量に含む昆布を過剰に摂取すると甲状腺の機能障害を起こす場合があるので注意する必要がある。

歴史

三管領の一家に数えられた源氏の細川氏が、元海賊であった水軍の舟で京都に持ち込んだとされる。
日本の歴史的な文献に初めて登場するのは「続日本紀」である。
描写によると、当時の東北では昆布を献上品として収めていた。
それにともない日本海沿岸の酒田や後に下関を経由して大阪の重要な港に出荷されることになる。

さらに江戸時代に蝦夷地(現在の北海道)の開発が盛んになると、航路の整備、出荷量の増加などにより全国に広まっていく事になる。
とりわけ琉球王朝時代に昆布を中国への朝貢品の主要産物としていた。
朝貢には適さない半端モノや下等級品をやむなく工夫して自家消費した。
昆布はのちに伝統料理化する沖縄料理にはよく用いられる。

上方食文化における昆布

湿気の多い大阪で乾燥させた昆布を倉庫に寝かせておくと、熟成することで昆布の渋みが無くなり甘みがでてくる。
大阪に昆布が広まったのは商用船が日本海航路を通って下関経由で大阪に運ばれるようになってからである。
安土桃山時代に農・乾物の一大集積地であった大阪は多湿な気候が乾物や昆布の旨味を熟成させた。
これより、江戸時代になると真昆布のダシを特徴とした食べ物は「大阪の食い倒れ」として有名になってきた。

大阪の農産物と交換に蝦夷から運ばれた乾物は、昆布のほか、帆立貝、タラ、身欠きにしんなどがある。
主に商用船は太平洋側を避けて日本海航路で運ばれるようになった。
その結果、大阪より敦賀や小浜で昆布の消費が多くなっている。

大坂では、刃物の街である堺市の職人が、乾燥昆布を甘酢に浸し、表面を削ったおぼろ昆布が生まれた。
昆布表面の黒い部分は甘酢がよく染みていることから、酸味が多い黒い「おぼろ昆布」(黒おぼろ)になる。
中でも表面を薄く削ってゆくと、内側の白い部分が出てくる。
ここは酢に浸っておらず、昆布本来の甘みがある。
この昆布は「太白おぼろ」と呼ばれる。
最後に残った昆布の芯の部分はばってら寿司や押しすしに使われるばってら昆布(白板昆布)になる。
薄く削るには職人による高等技術が必要とされる。

上記の堺でも「おぼろ昆布」が発達した。
また北前船の集積地でもある敦賀でも「おぼろ昆布」技術が発達した。
おぼろを削ったヘタの部分は、爪昆布と呼ばれ、お菓子として食べられることもある。
その他昆布の加工品といえば、塩昆布(日高昆布)が連想される。
戦国時代の出陣の際、勝ち栗や喜ぶなどの縁起を担いだ出陣式に醤油で炊かれた塩昆布は細目昆布を醤油で煮込んだものと思われる。

醤油で炊かれた塩昆布を火鉢の網の上に並べて乾燥させては醤油につけ、網の上で3回乾燥させたものを「汐吹き昆布」といった。
粉が表面に吹いているように見える。
これは昆布のうまみ成分が結晶化したものである。
現在では、イノシン酸や昆布のグルタミン成分などの調味料をまぶす場合もある。

発酵食品分野に昆布が登場

近年、発酵食品のひとつに発酵塩昆布が考案された。
もともと、昆布には硫酸基をもつ物質が含まれており、菌の繁殖を妨げていた。
この硫酸基に影響を受けずに昆布を発酵させる菌が海底生物から見つかった。
このために発酵塩昆布の開発に拍車がかかった。
昆布を発酵させる技術は、宝ホールディングス、協和発酵キリン、こうはら本店がそれぞれ独創的な技術を持つ。

天然酵母が育てた塩昆布「舞昆」という新しい発酵食品を開発した「こうはら本店」は食品昆布発酵技術の先駆けである。
サントリーが、岸田綱太郎博士の乳酸菌技術を使った、昆布発酵健康食品を製品化に成功した。
発酵昆布には、血中のコレステロールを低下させる効果が発表されている。

医療での利用

乾燥した昆布は水分を吸収すると膨張するという性質をもつ。
この性質を利用して、医療用拡張器の原材料として昆布が利用される。
子宮等の拡張に用いられるラミナリアがそれである。
原材料は主にオニコンブ(別名羅臼昆布、学名 Laminaria diabolica Miyabe)の茎根である。

[English Translation]