帯 (Obi)

帯(おび)とは、身体に巻き付けることで、衣類を止めたり、道具を装用したりする機能を持つ、装身具の一種。
および、それに類似した形態をもつもの。

帯の歴史

帯の始まりはおそらく衣類自体より古く、初発的形態としては裸体に腰紐のみを巻き、そこに狩猟で用いる道具を挿していたことにはじまる。
これは現代にも残る、いわゆる未開社会で見られる。

前開きの上着に対して帯は原理的には必須ではなく、ガウンなどのように、脇の部分に結ぶための紐を備えることで、開かないようにできる。
同様に下穿きについてもベルト (服飾)ではなくサスペンダーがあれば良い。

道具(ことに武器)を装用するための機能としては、たとえば日本刀において、打刀は腰に差す形で携行されていた例などが挙げられる。
もとより日本語では「帯びる」というように、それは身体の最も近いところに置くことである。
また漢語に於いても同様で、「携帯する」という語には既に、帯という字が含まれている。

帯は服飾史においては、「帯びる」「止める」よりも「飾る」機能の発揮によって様々なものが現れてきた。
上半身と下半身を分かつ一本のラインとなり、トータルコーディネートの上での重要なアクセントである。
ことに和服の帯のように幅広のものは、意匠を凝らす余地が存分にあることから、様々な模様が与えられ、帯としての機能を離れ鑑賞物とすらなっている。

帯鉤

広くは、帯は結び目を作ることで固定するが、帯鉤(たいこう)と呼ばれる金具によって固定するものも、ヨーロッパでは新石器時代の終わり頃からすでに見られる。
いわゆるベルト (服飾)である。
これはなにもヨーロッパ特有のものではなく、たとえば始皇帝陵の兵馬俑群が、その兵士たち一人ひとりが異なる形状の帯鉤を身につけていることでも知られているように、アジアなどにも存在した。
これは日本においても律令制の時代の遺物には残っている。

和装の帯

和服の帯は江戸時代初期までは幅10cm程度の細い物であった。
紐が使われることもあった。
ところが平和な時代が長期に渡り、また華美を競う風潮と相まって女性の帯は時代が下がるごとに長大化が進んだ。

現代の着物の着付けでは、ほとんどの場合あらかじめ腰部分を紐やコーリンベルトで縛って固定した上から帯を巻くため、帯の目的はもっぱら装飾である。

呪術的な要素

身体を取り締めるものである帯は、生命にかかわる呪術的な力をも有すると考えられ、妊婦のために特別のものが用意されるなどしたほか、様々な伝承において、力帯(ちからおび)やそれに類する装身具が広く見られる。
北欧神話におけるトールの神話もその一つに挙げられる。
もともと、ウェイトリフティングなどのパワー系競技において、腰椎の保護などの機能も併せ、専用のベルトを装着する選手が多いように、適切に巻かれた帯は身体能力を発揮する一助となる。
このことは古くより体験的に知られており、神秘的な力として、その強力なものが口承の中に現れてくるのであろう。

日本では帯初めという通過儀礼もあった。
これは、着物の付け紐を取り、幼児が初めて帯を結ぶ儀式である。
もとは室町時代に貴族の間で始まったと考えられる。
地方によっては両親が執り行わず、帯親と呼ばれる人物に託す。
これは名付け親などと同様の、仮親の一種と分類される。

書籍の帯

書籍における帯とは、本についてのキャッチコピーなどが刷られた紙。
表面の一部分(通常は一番下)を覆うように巻く。
本にかけたベルト(帯)のように見えるので、この呼び名がついた。
帯紙、袴、腰巻と呼ばれることもある。

帯は、限られた小さなスペースでその本のアピールをしており、練った言葉やショッキングな言葉が使われている。
色や形に凝って、目を惹くようにした帯もあり、中には表紙の高さの半分以上に渡る大きな帯もある。
場合によっては予算の都合で使える色の数(というより印刷の版の数)が少ないこともあり、用紙や、表紙との兼ね合いから、デザイナーの腕の見せ所となる。

通常は一冊に対し一つの帯が用いられるが、出版社によるキャンペーン(フェア)が行われる場合、その商品群に対して統一した帯が用意され、書店などにおいて掛け替えが行われる。

帯は表紙(カバー)と一体として、併せてデザインされることが多く、その副作用として「帯を外したあとの表紙(カバー)が、間が抜けて見える」と評される装訂も見られる。

捨てられることが多いため、愛好家の間では貴重品になることもあり、古書店で帯だけを万引きする者も存在する。
人気作品や後に評価が上がった作品の初版帯付き本は、ネットオークション等で高値で取り引きされる傾向にある。
人気作品は増刷され、それに伴って帯も変更される事から、初版時の帯は特に珍重される。
また、古書店の同業者市では帯のみを販売している場合もある。

出版業界における一般的な通念によれば、帯の体裁や、そこに記載する文章等は、その本の著者・編者ではなく、本を刊行する出版者出版社に決定権がある。

また、帯の内容によって大きく本の売り上げを引き上げることがある。

なお、こういった書籍の帯とほぼ同じ役割であるためと思われるが、コンパクトディスクの形態で販売される音楽やゲームソフトにも帯と呼ばれるものが付属している。
ただしこちらは下部に巻きつけるのではなく、CDケースの厚みにあわせた2本の平行な折り目をつけたやや硬めの紙をケースの背の側にかぶせるというもので、英語圏では「背骨」や「本の背表紙」を意味する言葉のSpineで呼ばれる。
書籍の帯と同様、中古での売買時には欠損している事が珍しくない。

製本工程における帯

製本のうち、上製本を作る工程の中で、断裁後に丸み出しと呼ばれる作業がある。
上製本の書物にあるページ揃えのゆるやかなカーブをつくる作業だが、これを行った後、そのままにしておくと背表紙部分の弾力によって元に戻ってしまう。
このため、丸みが元に戻らないように仮止めしておく布のことも帯と呼ばれる。

包装としての帯

刷了後の印刷物を纏めておく、ハトロン紙やクラフト紙による簡易包装のことを、帯あるいは帯掛けと呼ばれる。

レコード類の帯

書店で売られていたフォノシート類や、レコード店で売られるレコードに付けられた盤名、価格、宣伝などが書かれたたすき状の紙を「帯」または「たすき」と言う。
主に表面に大文字でタイトルが、小さめの文字でキャッチコピーや規格番号、価格などが書かれ、裏面には同系統のディスコグラフィや再生機などの宣伝が書かれている事が多い。
コンパクトディスクに付属する同様の物は多少形状の違いはあるが一般に「帯」または「キャップ」と呼ばれる。
これがないと正式なタイトルや規格番号、価格が分からない場合もある。
書籍の同様、収集家は帯にこだわる。
そのため中古店では帯の有無で買取価格、販売価格が異なる場合が多い。
ただし、複合型の新古書店ではその限りではない。

その他の帯

帯の物理的形状から敷衍して「帯域」「帯グラフ」など幅を持った事物・概念にも適用される。
帯 (放送業界用語)もこのひとつである。

[English Translation]