幽霊 (Yurei (Ghosts))

幽霊(ゆうれい)は、日本の民間信仰の中で、人が死亡して、肉体から魂が離れた後も、未練や遺恨を解くために、現世(うつしよ)に残り、生前の姿で幽か(かすか)に可視化したもの。

概要

日本の古神道に由来する観念である。
本来の仏教には、輪廻転生をするので、特定される個人としての死はない。
または、霊魂や神の存在も認めていない。
それらに類する概念は、インドから派生した仏教に、様々な時代や地域で後から付加されたものである。
密教がその一例である。
日本の場合は神仏習合の結果、日本独自に発展した仏教が多く見られる。
このことが、日本の民間信仰の説明に用いられる時に、誤解が発生する原因である。
また現在の神社神道も、格式や儀式や「人格神(尊・みこと)」に重きをおいて、様々なものをそぎ落とした。
したがって、日本の民間信仰(古神道)と乖離している部分が多くある。

古神道や神道において、祖霊信仰(先祖崇拝)は根幹となる価値観の一つであり、死者の霊魂の存在の観念と共に縄文時代にはすでに発生していたといわれている。
魂(たましい)や御霊(みたま)は重要な概念である。
御霊は分霊することも可能であるとしている。
また荒御魂や和御魂という魂の様相がある。
それぞれ「荒ぶり禍をもたらす魂」と、「和ぎり福をもたらす魂」とされる。
世界観においては、現世(うつしよ)という現実世界と、常世・常夜(双方とこよ)または、幽世(かくりよ)といわれる神域に別れる。
常世は天国や理想郷とされる。
常夜は地獄や黄泉の国とされる考えと、たんに幽世といわれる神の世界であり死後の世界という考えがある。
以上の前提により「日本で伝承されてきた」幽霊とその他の類例を表記する。

現世

本来は精霊や祖霊になるべきもの。
または見えるという変化(へんげ)したので、お化けとも呼ばれる霊。

人魂
御霊とは玉・珠でもあり、球体をしているとされる。
本来は見えないものが、幽かに可視化したもの。
正月(精霊・祖霊は年神の起源でもある)やお盆の時期に帰ってきた祖霊(精霊・しょうろう)といわれる。
また肉体を離れた直後の御魂などといわれる。

死霊
- 現世に残る、死者の霊魂の全てをさす。
また生霊の相対語としても使われる。

和御魂
辞書の大辞林などでは、悪霊に分類されていないため和御魂とした。

亡霊
- 死後、肉体を離れた魂が、現世に残り、生前の姿で幽かに可視化したもの。
何故そうなったのか客観からは解らない。

幽霊
- 死後、肉体を離れた魂が、遺恨を解くため現世に残り、生前の姿で幽かに可視化したもの。
何故そうなったのか理由がある。
遺恨を解くことは、好いことであると解釈できる。

荒御魂
悪霊
- 禍をもたらす霊魂のこと。

怨霊
死後、肉体を離れた魂が、怨念から現世に残り、生前の姿で幽かに可視化し、禍をもたらすもの。

生霊
生きている人の強い怨念から、魂の一部が分霊し、その人の姿で幽かに可視化し、禍をもたらすもの。

幽世

本来のあるべき姿なので、お化けではない霊。

精霊(しょうりょう・しょうろう)
常世・常夜(とこよ)へ旅立った霊魂で、お盆に帰ってきても、見ることはできない。
(注意:「せいれい」と読んだときは日本以外の神霊の類のこと。
若しくは文化人類学のアニミズム論で用いられる魂や霊魂や命や神の総称や一部を表す言葉)

祖霊(それい)精霊のことでもあるが、精霊の内、あくまで子孫がいる者の霊を祖霊とする考えや、死後の時間経過や子孫の弔い(とむらい)のしかたにより、位付けされ、精霊から祖霊に果ては神に変わるとする考えや、現世に残った死霊と常夜へ旅立った精霊の総称を祖霊という考えがある。

伝承のない霊の類とされる造語

その他、自然霊・守護霊・動物霊・浮遊霊・地縛霊などは、近年に作られた「造語」である。
(地縛という言葉すら存在しない)
特定の利益誘導からともとれる、ごく狭い範囲の人々の考え(思想にすらならない)である。
また、漫画などで流布された、流行廃りの風説の類であり、民俗学や文化人類学などの、学問の机上にものらない、いい加減な言葉である。

文化・芸術

江戸時代以前から怪談という形で伝承された。
江戸時代にはには幽霊話が大流行し、雨月物語、牡丹灯籠、四谷怪談などの名作が作られた。
また講談・落語や草双紙・浮世絵で描かれ花開いた。
現在も題材として古典から新作の題材として笑話・小説・劇などに用いられ、様々な媒体で登紹介される。

1825年7月26日に江戸の中村座という芝居小屋で「東海道四谷怪談」が初公演された。
その事に因んで、7月26日は「幽霊の日」となっている。

幽霊のカタチ

肉体はなく、実体ではないので、朧に見えたと考えられる。
何故なら普通に見えれば、霊ではなく人にしか見えない。
若しくは蘇生した人と考えられてしまう。

日本では、幽霊の描写として『乱れ髪に天冠(三角頭巾)、死装束の足がない女性』という、芝居やお化け屋敷などでの典型的な姿でイメージされることが多い。
この「日本型幽霊」は、江戸期に浮世絵の題材として描かれてから定着したものである。
河出書房から出版された『渡る世間は「間違い」だらけ』によると、歌舞伎の舞台「四谷怪談」の演出で幽霊の足を隠して登場したものをルーツとしている。

「いくさ死には化けて出ない」との言い伝えもあるが、平家の落ち武者や大戦での戦死者のように、死んだときの姿のまま現れると言われる幽霊も多い。
一方、海外の幽霊は足があるものが多い。

足のない幽霊

「足のない幽霊を最初に書いたのは円山応挙」と言われることがあるがこれは俗説である。
実際には、応挙誕生以前の1673年に描かれた「花山院きさきあらそひ」という浄瑠璃本の挿絵に、足のない幽霊の絵が描かれている。
これが現存する最古の足のない幽霊の絵と言われている。
この時代にはすでに「幽霊=足がない」という概念があったようである。
ただし、応挙の幽霊画は江戸時代から有名であったらしく、その後多くの画家に影響を与えたといわれている。

幽霊の付く言葉・人
生物
ユウレイイカ:イカの一種。
発光器があり、かなり強い光を出す。

ユウレイグモ:蛛形綱クモ目ユウレイグモ科の節足動物の総称。
薄暗いところを好み、カラダが白っぽく、やせて華奢な姿をしていることから。

ユウレイタケ:ギンリョウソウの別名。

幽霊に直接係わる若しくは模したもの。

幽霊の日:7月26日。
鶴屋南北作東海道四谷怪談が初演された文政8年(1825)7月26日を記念する日。

幽霊坂
- 坂の地名。
由来は諸説あるが、「幽霊が出た、出そうだ」とされ命名された。

『子育て幽霊』
- 日本で伝承される民話で、『子育て幽霊』ともいわれる。

内弁慶外幽霊
内弁慶の外幽霊ともいい、外面と内面の差が激しい性格のたとえ。

『幽霊塔』
- 日本で幾つか翻訳された塔を舞台とした外国の推理小説。

幽霊船
- 日本やヨーロッパに伝承される幽霊だけが、乗船している船。

お化け屋敷
- お化け屋敷の別称。

可変電圧可変周波数制御:初期の可変電圧可変周波数制御電車など、歌舞伎や時代劇における幽霊の効果音のような走行音(励磁音)を出す電車を指した俗称(鉄道関係の俗称)。
幽霊電車とは無関係。

実体のないことの例え(幽霊は肉体がないので)
幽霊文字
幽霊部員
幽霊指揮者/幽霊オーケストラ
鉄道模型:貨車・客車・炭水車など、本来動力装置を持たないはずの車両に動力装置が付与された鉄道模型の俗称。

人名
平野幽霊
柳ユーレイ

[English Translation]