書道 (Shodo (calligraphy))

書道(しょどう)または書(しょ)とは、書くことで文字の美を表そうとする東洋の造形芸術である。
カリグラフィーの一種。
中国が起源であるが、日本においては漢字から派生した仮名 (文字)、ベトナムではチュノムなどが発明されると共にそれぞれ独自の書風が作られている。

概説

文字ははじめ実用として生まれたが、文化の進展につれ美的に表現する方法が生まれた。
この美化された文字を書という。
書道とは、この文字の美的表現法を規格あるしつけのもとに学習しながら、実用として生活を美化し、また趣味として心を豊かにし、個性美を表現していくことである。
そして、その学習過程において、人格を練磨し、情操を醇化していく。
よって、書道は人間修養の一方法であり、古来、中国では六芸の一つとして尊崇されてきた。

書道は主に毛筆と墨を使い、その特徴を生かして紙の上に文字を書く。
その技法には、筆法(筆の持ち方、点画の書き方)、結構法(字形の整え方)、章法 (書道)(全体のまとめ方)があり、それぞれに様々な方法が編み出され、書体や書風などによって使い分けられている。

日本では昭和からの大規模な書道展の開催により、書道が近代芸術としての地位を確立したことから、その芸術作品としての創作方法も書の技法に加わった。
これらの技法の習得には、色々な教育機関を通じて書家に師事し、古典を中心に学習し、書道展などに出品しながら技量を高めていくのが一般的である。
日本の代表的な展覧会である日本美術展覧会の第五科(書)では、漢字、かな (書道)、篆刻、調和体の4領域が実施されている。

歴史

書道史は美術に関する歴史学の一部門であり、本源である中国書道史と、傍系である日本書道史の2つに大別することができる。

書人

中国

筆跡

中国の筆跡は中国の筆跡一覧を、日本の筆跡は日本の書道史の各時代を参照のこと。

書論

現存する中国最古の書論は、後漢時代に著された中国の書家一覧趙壱の『非草書』である(中国の書道史書論を参照)。
日本最古の書論は、平安時代後期(1177年以前)に著された藤原伊行の『日本の書流夜鶴庭訓抄』(やかくていきんしょう)とされる。
また藤原教長の口伝を藤原伊経が記録した書道秘伝書『日本の書流才葉抄』(さいようしょう、『筆躰抄』(ひったいしょう)ともいう)も安元3年(1177年)頃のものである。

用具

毛筆による書道の場合、硯・筆・紙・墨が最低限必要な用具であり、これらは文房四宝と呼ばれる。
墨が固形の場合、水も必要となる。
このほか、毛氈と呼ばれる下敷きも多用される。

硯…絵画におけるパレットと用途は同じである。
墨を磨る、或いは墨汁をためておく役割を果たす。
通常、石材が用いられるが、中には陶器や漆器などで出来たものもある。

筆…ウマ、ヒツジ、タヌキなどの動物の毛をまとめて木や竹の柄の先に取り付けたものが一般的である。
ほかに、ニワトリ、イタチ、マングース、クジャク、竹などもある。
楷書用の大筆は八分目までおろし、行草用は根本までおろして使うのが良いとされる。
小筆は半分以上おろさない方がよい。

紙…大量生産された書道用紙が多く用いられるが、高級なものでは宣紙、和紙なども使用される。

墨…インクである。
油や石油、マツなどのススをゼラチンで固め、保存性を高めたものが市販されている。
煤を植物油や石油から採ったものを「墨油煙墨」、松から採ったものを「墨松煙墨(青墨)」という。
また、液体として墨汁も多用される。

重し…紙を固定するための重りである。
大きさや重さに特に制限はない。

古典

書の古典とは、先人たちの努力と創意の積み重ねにより生まれた美しい筆跡であり、この古典を学ぶことが最も正統な書の学習とされる。
書を究めることは容易ではないが、古典を学び先人たちの書とその変遷を知ることにより、学書者に指針を与え、さらに作品の深さや心の高さなど、独りでは到底到達できない境地まで引き上げる効果が期待できる。
古典は数多くあるが、最初に学習すべき各書体の基本的な古典は通常以下のものとされる。

楷書体…欧陽詢九成宮醴泉銘、虞世南孔子廟堂碑 など

行書体…王羲之集王聖教序、蘭亭序 など

草書体…孫過庭書譜、王羲之十七帖 など

隷書体…隷書体乙瑛碑、隷書体曹全碑 など

篆書体…始皇七刻石泰山刻石、石鼓文 など

かな (書道)…高野切第一種、高野切第三種 など

臨書

手本を見ながら書くことを臨書といい、形臨(けいりん)、意臨(いりん)、背臨(はいりん)の方法がある。
形臨は字形を真似することに重点を置き、意臨は筆意(ひつい、筆者の意図)を汲みとることに重点を置く。
背臨は手本を記憶した後、手本を見ないで記憶を頼りに書く方法である。
臨書は古典などの学習手段として古来から行われており、奈良時代の光明皇后による王羲之の『王羲之楽毅論』の臨書が正倉院に現存する。

中国

中国では書法(Shūfǎ しょほう)と呼ばれ、初等教育で指導される。
簡体字が視覚的に美しくないということで繁体字での書道教育も模索された時期があるものの、政策としての簡体字推進に矛盾することから現在は簡体字の指導で統一される。
硬筆・ボールペンなどの書道教育も試みられている。
また、中国各地に書法協会が存在し、公教育から離れた立場で書道の発展に貢献している。

日本

日本の義務教育では、国語科の書写として小学3年生以上の授業では毛筆により指導されることが学習指導要領で定められている。
高等学校では芸術科に音楽・美術などと並び、書道が選択科目として配置されている。

大学では、教育学部や文学部を置く大学では書道に関する講義を設けている。
特に各県に設置されている教員養成系の教育学部では書写教育・書道教育の研究室が置かれ、専門教育が施されている。

岩手大学、新潟大学、筑波大学、東京学芸大学、静岡大学、福岡教育大学などの国公立大学では、書道に関する学科・専攻・学群・コース・領域が置かれ、大学院も併設し、有為な指導者の育成を目指している。
筑波大学と、東京学芸大学、横浜国立大学、千葉大学、埼玉大学の4校からなる東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(連合大学院)には博士課程(芸術学博士:筑波、教育学博士:連合大学院)も設置されている。
なお兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科にも同様な博士課程(教育学)があるが、書写教育のみを専門に扱っている。

私立大学では、大東文化大学では書道学科、四国大学では書道文化学科を開設するなど、書家や教育者の本格的養成に努めている。
なお、両大学は大学院にも書道に関する専攻を設置している。

書道研究

現在、日本には書道、および文字にかかわる学会・研究会として次のものがある。

書学書道史学会

全国大学書道学会

全国大学書写書道教育学会

全日本書写書道教育研究会

日本の書道団体

芸術系の書道団体と教育系の書道団体があり、芸術系では日本美術展覧会が全国的な公募展を行っている。
このほか、地方・都道府県単位で組織する書作家協会や、書家が主宰する様々な会(社中とも呼ばれる)がある。
教育系団体は独自の検定試験などを行い、書道の普及活動に努めている。

職業としての書道

日本では昔から「読み書きソロバン」として、寺子屋などで習字が指導されてきた。
この伝統の下、多くの書道教室・習字教室が存在している。
指導者は高齢化の傾向にあったが近年、若手の男性書家がテレビ番組や若者向き雑誌に登場するなど、やや様変わりしてきた。

コンピュータの発達とともに、コンピュータを使って書作品を加工したりする敷居が下がるのと時を同じくして、デザイン書道と呼ばれるジャンルが確立してきた。
これは書作品を生活雑貨やインテリア、表札などの多様なものにコンピュータ処理などを経てデザインしていくもので、書にまつわる新しい職業として注目されている。

技量の判定

現在、唯一客観的な書道の技量判定基準を持つ資格として、文部科学省後援の毛筆書写検定がある。
これは最下位の5級から最上位の1級まであり、段位の認定はない。
1級を取得すると、指導者として公的に認められる資格を持つと認定される。
これに対して一般に普及している段位・級位や師範の認定は、各書道教室や書道会が独自に判定しており、共通した基準に基づくものではない。

[English Translation]