洛中洛外図 (Rakuchu Rakugai Zu (Scenes In and Around Kyoto))

洛中洛外図(らくちゅうらくがいず)は室町時代から江戸時代にかけて描かれた風俗画で、京都の市街(洛中)・郊外(洛外)を俯瞰して描いたもの。
ほとんどは屏風絵である。
美術史上の価値はもちろん、当時の都市や建築を知る史料であるとともに、武士や公家から庶民までの生活が細密に書き込まれており、貴重である。

洛中洛外図は多分に政治的な意図のもとに制作されたもので、御所、武家屋敷などが目立つように描かれる。
多くは狩野派の手になる。
また画面の構成にも定型化が見られる。
16世紀のものは右隻に下京区、左隻に上京区(北)を描き、17世紀のものは右隻に東、左隻に西の街並みを描く。
春・夏・秋・冬の風物や行事を描き、祇園祭の山車を書き込むものが多い。

洛中洛外図の始まり

三条西実隆の永正3年(1506年)の日記に、「越前国の朝倉貞景が土佐光信に京を描いた一双の屏風を造らせた」という意味の記述があるのが、洛中洛外図の文献上の初見とされる。
この時期に描かれた背景として、応仁の乱で中断していた祇園会が1500年に復活したこと(都市復興)との関連性も考えられる。

初期洛中洛外図

16世紀に制作されたものを初期洛中洛外図と呼び、御所、幕府、細川邸などが大きく描かれる。
(模本を含め)次の4作が知られる。

歴博甲本(国立歴史民俗博物館所蔵)六曲一双 重要文化財
明治以降、三条公爵家から町田家の所有になったため、三条本あるいは町田本ともいう。
現存する中では最古で、京都の景観は1520年代、狩野派の絵師(狩野元信?)の作といわれる。

東博模本(東京国立博物館所蔵)
江戸時代に制作された模本で、狩野永徳が描いた原図を写したものと伝えられる。
描かれた景観は1540年代とされる。

上杉本(米沢市上杉博物館所蔵)六曲一双 狩野永徳筆 国宝

米沢藩主上杉家に伝わったもので、洛中洛外図の中でも傑作とされ、国宝に指定されている。
狩野永徳が描き、1574年(天正2年)に織田信長が上杉謙信に贈ったとされる(上杉年譜)。
描かれた景観から制作年代について様々な議論が行われてきたが、今谷明は景観年代を1547年と限定し、永徳筆であることを否定した(『京都・一五四七年』)。
今谷説は美術史家にも衝撃を与えたが、その後、瀬田勝哉は景観年代を下げ、注文主を足利義輝と推定。
さらに黒田日出男は景観年代を1561年(永禄4年)以後としたうえで、作画完了は1565年(永禄8年)とする史料を示した(『謎解き洛中洛外図』)。
従来は、信長が永徳に命じて描かせたものと考えられていたが、現在は屏風の注文主を足利義輝とし、義輝死後の1565年(永禄8年)9月に完成、その後信長が入手し、1574年に上杉謙信に贈ったものとする解釈が有力である。
画面の景観年代は必ずしも制作年代に直結せず、粉本をもとに描いた可能性があること、画面に捺される「州信」の朱文円廓内壺形印は、永徳所用印のうちもっとも信頼度の高いものであること等により、美術史家たちは本作を永徳の真筆とみなしている。

歴博乙本(国立歴史民俗博物館所蔵)六曲一双 重要文化財
高橋本とも呼ばれる。
狩野松栄(永徳の父)の作という説もあり、年代は上杉本の前後と考えられている。

江戸時代以降

江戸時代以降の洛中洛外図では二条城が大きく描かれる。
19世紀まで数多くの洛中洛外図が描かれており、約100の作品があるという。
重要文化財に指定されたものとして3点がある。

舟木本(東京国立博物館所蔵)六曲一双 重要文化財
左隻に二条城(徳川)、右隻に方広寺大仏殿(豊臣)を対比的に描いている。
慶長年間の京都を描き、岩佐又兵衛の作ともいわれる。
中心に大きく市街地を置き、歌舞伎小屋や遊女屋などの都市風俗や、庶民の生活が生き生きと描いており、洛中洛外図の中でも個性的である。

勝興寺本 六曲一双 重要文化財
勝興寺(富山県高岡市)に伝わるもの。
二条城と方広寺大仏殿を対比させている。
元和 (日本)年間の京都を描き、狩野派の作といわれる。

池田本(林原美術館所蔵) 六曲一双 重要文化財
岡山藩の池田家に伝わったもの。
元和年間の京都を描いたとされる。

また、朝鮮通信使が描かれているものがあることも江戸期の洛中洛外図の特徴の一つとして挙げることが出来る。
10点ほどが知られており、代表的なものとして今井町本(奈良・個人蔵 六曲一双金地着色)、守護家本(富山・個人蔵 六曲一双金地着色)、紀州徳川家旧蔵とされる米・ボストン美術館のものなどがある。

その他

狩野永徳が信長の依頼で「安土城下図」を描き、ヴァチカンに贈られたという。

江戸時代初期に江戸を描いた「江戸図屏風」もある(国立歴史民俗博物館所蔵)。

[English Translation]