煙管 (Kiseru (Tobacco Pipe with Metal Tipped Stem))

煙管(きせる)は、日本の喫煙道具の一種で、西洋のパイプ (タバコ)に類似する。
麻薬関係での使用については、麻薬の各項目を参照されたい。

語源

語源については異説もあるが、カンボジア語で管を意味する「クセル」が、なまったものとされる。
しかし、カンボジア語の「クセル」には、たばこを喫煙する管という意味しかなく、「キセル」もしくはキセルの語源となった言葉からの派生と考えたほうがよいかもしれない。

新たに提起されている語源として、ポルトガル語のsorverもしくはスペイン語のsorberが挙げられている。
いずれも「吸う」の意である。
関係代名詞queを接頭につけ、「吸う物」の意味で que sorver もしくは que sorber とした場合、発音としては「キソルベル」となる。

煙管の部品

大きくわけると、刻み煙草を詰める火皿(椀形の部分)に首のついた「雁首」(火皿の付け根から羅宇と接合する部分まで)、口にくわえる部分の「吸い口」、それらをつなぐ管の「羅宇」(らう)ー(らお)とも読むーにわけられる。
また、羅宇の語源は、カンボジアに近い羅宇国(ラオ国・ラオス)の竹(黒班竹)を使用していたことによるというのが定説である。
しかし、「キセル」またはキセルの部位の語源を東南アジアに求めることに疑問は多く、ポルトガル語にrabo(「柄」の意)、スペイン語にrabo(「軸」の意)があることから、こちらを語源と考えたほうがより自然であるとする論考もある。

煙管の材質

雁首、火皿、吸い口については耐久性を持たせるためにその多くが金属製であり、羅宇については、高級品では黒檀なども見受けられるが、圧倒的に竹が多いようである。
このように羅宇が植物性の煙管を「羅宇煙管」と呼ぶ。
幕末以降には吸い口に草花などの彫刻や鍍金装飾がみられる。
これに対して、全体が金属製の煙管を「延べ煙管」と呼んでいる。
使用される金属の種類は金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、またはそれらの合金など多様で、鍍金や象嵌を施したものもある。
また全体が陶製やガラス製のもの(最近のガラスパイプなどとは形状が違う)もあり、中には竹や木でできた簡易煙管もあった。

使用方法

煙草は以下のようにして吸われる。

細く刻まれた繊維状の刻みタバコを適応な大きさに丸める。

雁首の火皿に丸めたタバコを詰める。
袋物のタバコ入れの中に雁首を突っ込んで詰める人もいる。

煙草盆の炭火に雁首を近づけて火を点ける。

タバコをそっとゆっくり喫う。

タバコが燃え尽きて煙が出なくなったら、煙草盆の灰吹きのふちを軽く叩くなどして灰を落とす。

火皿に灰が残っていたら空吹きをして灰を飛ばす。

火皿一杯で満足できない場合は、1 – 6 の繰り返し。

燃え尽きる前の火のついた灰の塊を掌に載せ、それが消える前に新しいタバコを火皿に詰め、掌の燃えさしで着火し、連続して喫煙する人もいる。

煙管の手入れ

紙を捻ったコヨリなどの細い物を管に通してヤニをとる。
煙管全体が金属製の場合は、ぬるま湯に浸けおくとふやけてくるので掃除がしやすい。

また、アルコールを流してヤニを取る方法もある。

羅宇屋

らう屋、またはらお屋とも読む。
かつては、羅宇のヤニ取りやすげ替えを生業とする露天商があって、羅宇屋と呼ばれていた。
小型のボイラーから出る蒸気で羅宇を掃除し、その際に鳴る「ピー」という笛にも似た音が特徴的であった。
最後の羅宇屋は、浅草寺門前で営業していたが2000年頃に廃業した。
が、ここ最近背負子スタイルの羅宇屋で復活している。

刻みタバコについて

刻みと呼ばれているが、紙巻きタバコの中身のように細かく刻まれたものではなく、干した葉を重ねて包丁もしくはカンナで糸のように細く切ったもの。
世界のタバコ製品の中で最も加工度が低いものの一つで、タバコ葉本来の味が楽しめるとして熱心なファンが多い。
専売制が実施される前は個人経営のタバコ店がそれぞれの刻みタバコを製造販売していた。
何千種類もあったが、専売制の下でマスプロ化が進んだことと、紙巻きタバコの消費増大で需要が減ったことで数銘柄からさらには1銘柄に減り、ついには国内での製造が打ち切られた。
しかし日本の伝統文化として復活と存続を望む声が多かったため、タバコ農家に在来種の栽培再開を依頼し、1銘柄(『こいき』)ではあるが昔ながらの良質の刻みタバコが復活した。

煙管と文化

多くの時代劇等で煙管は重要な小道具として登場することが多いが、16世紀以前の話に登場すれば全くの嘘である。
16世紀以後でも喫煙人口の少ない古い時代に庶民が立派な煙管を持っているのもおかしい。
また武家や商家などでは、贅沢の禁止と防火の意味から使用人には喫煙を禁止することもあり、誰もが煙草入れをぶら下げていたわけではない。

武士の場合はステータスシンボルと同時に自分の志の表現として、特別に自分の好みを施した煙管を注文したりした。
明治維新後に刀の携帯が禁止されたので、護身用にと鉄扇ないし重量のある鉄の煙管を持ち歩く武士達もいた。

江戸時代においては、多くの場合に大店の番頭や主人等が自分にあった道具をあつらえたりと、嗜好の世界というより一種のファッションやステータスシンボルであった。
また、煙草入や煙管筒に流行もあったといわれる。
この中では根付のような関係する工芸文化も存在し、この根付は明治時代の交易に関連して海を越え、イギリスにまで愛好者を増やした。
ロンドンのヴィクトリアアルバート美術館には、この根付コレクションの展示室も存在する。

江戸時代の吉原_(東京都)等の大見世(上等な女郎屋)の太夫(上等の遊女)などの間では、位が上ると帯の幅が広くなり、それに合せてその帯にさす、煙管の赤塗りの羅宇も長くするしきたりがある。
煙管の長さで女郎の格をはかることができた。

遊女は気に入った客に煙管を差し出し、客が受け取るとその遊女を気に入ったということになる。
歌舞伎『助六』のせりふにある「煙管の雨」とは、助六の男っぷりを暗に示す。

時代劇およびここから派生した時代物の劇画では、登場人物のヤクザや武士等が咥えタバコを動かしたり、煙草盆に叩き付ける仕草をする。
特にヤクザ映画等では、煙管を口にくわえたまま振ったりと、親分の意思表示の小道具に使用される。
例えば、加えたままの煙管の雁首を上げることは、強くかみ下唇を突き出す怒りや不快感の表情を強調するなどである。
この他にもタバコ盆に強く叩き付ける(灰を捨てる)動作で、休息を取りやめ行動に移るなど、気持ちの切り替えを表す。
またこれ以外にも身近な棒状の道具として、手に持ったりくわえたりした煙管を振るなどの動作で配下に対して、指し棒のように指示を出したりした。

現代の煙管

現在は、タバコの喫煙用としての煙管使用者の絶対数は少ないが、下記の理由などでその文化は存続している。

自然なタバコの味を楽しむため(香料を使わない刻みタバコを吸う方法として最良であること)

紙のタール問題(紙巻タバコの紙からのタールが癌の原因という説があるので)

紙巻タバコの吸殻の再利用

趣味の世界として(時代劇ファンやコレクター)

平成期の青年に、煙管の先に紙巻煙草を差して、喫煙をしている例がある。

フェティシズムの愛好例として、女性の陰部に挿して火皿に火を入れる使用例がある。

喧嘩煙管

喧嘩煙管(けんかきせる)とは江戸時代に町奴が主に用いていた煙管である。
町奴は町人であるゆえ、刀や長い脇差の携帯が許されなかった。
そこで旗本奴に対抗するための武器として総鉄製の煙管を造らせ、これを携帯していた。
長さは40 – 50cm、太さも数cmあり、羅宇を六角形にしたり、羅宇全体にいぼをつけるなど棍棒さながらの加工がなされている。

生物の名

その特異な形態から、生物の形でそれに近いものにその名が付けられる例がある。
以下のようなものが正式和名として採用されている。

動物
キセルガイ類:多くの種があり、○○ギセルの名で呼ばれている。

よく似た別群にキセルモドキもある。

植物
ナンバンギセル(ハマウツボ科)
- 万葉集では、「思い草」と詠まれた植物
ガンクビソウ・キセルアザミ(キク科)
キセルゴケ(コケ植物)

歌舞伎の煙管

観客の眼を引くように大きく、かつ軽く作られる。
「楼門五三桐」の石川五右衛門の銀の延煙管、「博多小女郎浪枕」の毛剃のオランダ模様のある大きな煙管など、歌舞伎狂言によってそれぞれ形がある。
なかでも助六の朱羅宇煙管は「煙管の雨が降るようだ」の名台詞とともに好劇家にはなじみ深いものである。

その他

煙管関係の職業としては、羅宇を付け替える職業の人がいた。

江戸時代には、寝煙草を原因とする火事も多かった。
参考:江戸の火事

慣用句として『雁首をたれる』という表現がある。

雁首を下げて吸うと、格好は良いが脂(やに)が下がるので味が落ちる。
このことから格好優先で煙管を吸う男を「やに下がった」と表現するようになった。

[English Translation]