餅 (Mochi)

餅(もち)とは、穀物、特にもち米に水分と熱を加えた後に、外力を加えて練り合わせ、成形した食品の一種で搗き餅(つきもち)ともいう。
その他に世界各国で、「穀物の粉」を水を加えて練って蒸しあげたものも、餅といい、日本では練り餅ともいうが、餅といえば搗き餅をさす場合が多い。

概要

餅つき(もちつき)は、日本独特の「つき餅」(搗き餅)の生成方法である。
つき餅はロータリーカーン式の石臼がなくとも作ることができる。
また、餅つきは神事としての側面を持つ。
厳密にいえば、中華文明圏などでは穀物の粉から作った「練り餅(ねりもち・日本においては、菓子に代表される餅」しか存在しないが、日本には「搗き餅」と「練り餅」という製法も材料も違う2種類の餅が存在する。

つき餅(搗き餅)
日本ではもち米を用いて作る餅がより一般的である。
製法は、まずもち米を磨いでから十分に水に浸しておいた後に、水気を切り、蒸し布で包んで蒸篭等で蒸す。
次に、蒸したもち米を杵と搗き臼で米粒の形がなくなるまで搗き、下記の「おもな餅の種類」に記載される形状に成形する。
最後に、それらを味付けしたり、餡や黄粉(きなこ)をつけて食べる。

中国にも、蒸したもち米を固めたものがあるが、製法はもち米を底の浅い器に敷き込み押し固めるというもので、日本のつき餅とは異なる。
また、「餅」という字を用いず、「糯米糕」(ヌオミーガオ nuòmǐgāo)、「糯米糍」(ヌオミーツー nuòmǐcí)などと呼んでいる。

歴史

古来から日本では、稲作信仰というものがあり、特に平安時代から朝廷に推奨され顕著になった。
これが現在でも受け継がれ、正月などのハレとケの日の行事には欠かせない縁起物の食材となっている。
このため、米などの稲系のもので作った餅が簡便で作りやすく加工しやすいことと相俟って、多様なつき餅の食文化を形成している。

材料
現在日本で市販されている角餅・丸餅には、原材料にもち米をそのまま使ったものと白玉粉を使ったものとがある。
前者と後者では販売価格が大きく異なり、前者が高い。
食味・歯ごたえを左右する腰の強さ・焼いた際の膨れ具合・煮た場合の溶け具合・伸ばした時の伸び具合や粘り具合等についても前者が勝るとされる。
廉価なつき餅には餅米粉に馬鈴薯等のデンプンを加えたものさえある。

また、マッチ箱程度の大きさのつき餅1個で飯茶碗1杯分のカロリーがあることや、個包装され保存が利く袋詰め商品であること、簡単に入手できることなどから災害時の非常食としても重宝されている。

種類(丸餅・角餅)
もち米を搗くまではどの地方でも同じ製法をとるが、その後の形成方法は関東地方と関西地方で異なる(鏡餅を除く)。
関西地方では、搗き立てをそのまま手で捏ね丸める「丸餅」が主流である。
一方、関東地方では搗いた後の餅をいったん板状に成形し、固まったところで切り分ける「角餅」が主流である。
また、関東では板状のままの突き餅も販売されており、各々の家庭で好みの大きさに切り分けて食される。
これは「切り餅」とも呼ばれる。

練り餅
餅は中華人民共和国・朝鮮半島地域・東南アジアなどに多くの種類がある。
古くは主にコムギを穀粉にして平たく固めてから加熱した粉食のことを指していたが、大麦、アワ、トウモロコシなど他の食材を用いた粉食のことをも含めるようになった。
ここでいう餅は、主にもち米を粉にしてから湯を加えて練る方法で作るものを指し、日本の羽二重餅などの求肥や白玉や粽、中国の「水磨年糕」(シュイモーニエンガオ shuǐmó niángāo)、韓国の「トック」(떡)などが挙げられる。
これらの穀物の粉から作った餅の味付けには、甘味を利かせるものが主体、プラス塩味を加減(時に塩辛いものもある)。
酸味は、日本の「すあま」にやや見られるものの例としては稀な部類に入る。

中華料理由来の月餅や饅頭は、小麦粉から作った「餅」が発達・改良されてきたものであり、麺類もその派生であるともいわれている。
和菓子の中にも、「そば餅」などと、日本で一般的に饅頭と呼ぶ物を「餅」と呼んでいる例がある。

餅つき(餅搗き)

一般に年末の12月29日は「苦を搗く」音韻から九日餅(くんちもち)と呼び、年の暮れの数日間のうちその日だけは餅を搗いたり購入を避ける風習がある一方で二九を音韻からフク(福)と読み29日を迎える地域もある。
1974年に小型の電動(自動)餅つき機が普及し、一般家庭で古典的餅つき風景を見ることは少なくなったが、自治会や子供会の行事としては今も人気があり、歳末の風物詩となっている。
電動餅つき機は大量の餅を作る精米店や餅菓子を販売する和菓子店、高齢化が進んだ農家等で人手が足りず人力による餅つきができなくなってきた場合により多く利用されている。
杵と臼で搗く機構の機械は商業化された場合に多く、小型のものは蒸した米をメーカー独自の特殊形状のヘラで練って十数分で搗いた餅と同じ状態になる。
ヘラで練る方式の機械で作った餅は、杵搗き餅と比べて細かい気泡が多く含まれ、雑煮に入れた場合に柔らかくなりすぎる、伸ばした時の表面の肌目の細かさなどといった食味の違いがあるが、一般には杵と臼で搗く餅を比較する機会が少ない理由から同等の食味を持つものとして扱われている。

餅の搗きかた

餅搗きをする前に杵の頭が欠けたり木片が餅に入るのを防ぐために水を張った桶の中に杵の頭を漬けて水分を含ませておく。
木臼の場合はよく洗い、臼に水を張って水分を含ませておく。
枯れた状態のまま杵で搗くと臼が割れる場合がある。

もち米は水洗いし、6~8時間程度水に浸し、ザルに開けて水切をする。

蒸し器の蒸篭に清潔なサラシやサラシより粗めの蒸し布を敷き、水切りしたもち米を開けて蒸し布でくるんだ後、蒸す。
炊けた状態は蟹の穴と呼ばれる孔が表面に見えるか、箸を挿してもち米が付着しなければ良いとされるが、米の芯が残っていない赤飯程度の固さに炊けていれば良い。
蒸し器がない場合は炊飯器のもち米の指標を選択すれば足りる。

炊けたもち米は蒸し布に包んだまま臼の中に開ける。
この時の米の状態は祝いごとの時に食べる赤飯と同じか若干固い程度である。

臼に開けたもち米は臼の外周に沿って杵の柄を腰に当てるか沿わせて体重をかけ、もち米を臼に圧し付ける。
適宜、ヘラや杓文字(しゃもじ)を用いて裏返し、満遍なく手早く粘りを出すようにする。

もち米全体がヘラや杓文字で持ち上げたときに一体になる程度に粘りが出始めたら搗き始めの目安とする。
最低限度の状態としては杵で搗いたときに蒸した米が飛散しない程度である。
この時の表面は米の形が識別できるものと餅状になったものが混ざった状態である。

日常的に目にする餅つきのように杵で搗き始めるが、粘りが増すごとに杵と餅がくっつくので手水(てみず)する。
手水とはあらかじめ桶に水を入れておき、手を水で濡らし餅の表面に水分を与えることである。
なお、蒸して数分しか経過していないので表面は炊きたてのご飯と同じに相当に熱いので、餅の表面を濡れた手のひらで叩く程度で良い。

手水が多いと餅を搗いている最中は柔らかいが、後で延ばしたり成形するときに固くなりやすく、先々カビが生えやすくなる。

搗き終わった餅は餅取り粉をまぶした板の上に置き、好みの形状に成形する。

餅つきが終わった後の杵と臼はタワシ等で表面の餅を必ず取り去る。

cf.杵や臼の大きさは尺貫法の寸で直径を指す。

もち米を搗いて作るもの

のしもち(延し餅・伸し餅)、切り餅

搗いた餅を1cm内外の厚さに手で延ばし板状にした餅。
包丁で好みの大きさに切断して食べる。
切り餅と呼ばれるのは延し餅を切ったもの。

なまこ餅

搗いた餅を海に棲むナマコ状の半楕円形に伸ばした餅。
包丁等で適当な厚さに切って食べる。
焼いたり、油で揚げて食べる。

海苔なまこ餅

餅に青海苔を加えて搗き、なまこ餅にしたもの。

豆なまこ餅

餅に黒豆や大豆を加えて搗き、なまこ餅にしたもの。

丸餅

搗いた餅を丸く成形したもの。
大きさや厚みによってそのまま食べたり板状に切断して食べる。

鏡餅

お供えとして大小の丸餅を二段に置いたもの。
正月の間は食べず鏡開きのときに固くなったものを包丁を用いず、木槌等で砕き割る。
適当な大きさになったものは焼いたり煮て食べる。
水に漬けてから蒸し、搗き直して食べる場合もある。

あぶり餅

竹串にさして炭火であぶった餅。

鳥の子餅

鳥の子供の姿に似せてずん胴のひょうたん型に成形した餅。
子供の一生に擬えて一升餅で作る。
餅を二分して食紅(しょくべに)で赤く着色したものを紅白餅として祝う風習があるが、一生を二分するのは不遜として紅白に分けない場合もある。

磯辺餅(いそべもち)

切り餅を焼き、熱いうちに醤油を付けて海苔を巻いたもの。

からみ餅

大根おろしにからませて食べる。

きなこ餅(安倍川もち)

焼いた餅または煮た餅に大豆を臼で引いて粉状にしたきな粉に砂糖を若干加えたものをまぶして(混ぜて)食べる。

ずんだ餅

茹でた枝豆を擂り鉢等を用いて潰したものに搦めて食べる。

揚げ餅

餅を 1cm 内外のサイコロ状に切断、または前記鏡餅で砕いた破片等を油で揚げた餅。
揚げた際に醤油・薬味などをまぶして食べる。

かんころ餅

さつまいもを輪切りにし湯がいて天日で干した物ともち米を一緒に蒸して、混ぜてついた黄色の餅(甘古呂餅)。

草餅

ヨモギを混ぜてついた緑色の餅(ヨモギ餅)。

栃餅

栃の実を混ぜてついた茶色の餅。

菱餅

雛祭りの際に雛壇に飾る餅。

あんころ餅・ぼたもち

小豆でつつんだ餅。

あん餅

中に餡が入った餅。

花びら餅

牛蒡を餅でつつんだもの。

おかき(かきもち)

「おかき」。
餅を薄く切断したものを天日で乾燥させ、焼いたもの。
醤油等を塗る場合もある。

柏餅

塩漬けした柏の葉でくるんだ餡入りの餅

あらかね餅

餅米の中に普通の米を混ぜてついた餅。

酢餅

大根おろしとカボスまたは柚の果汁(ポン酢)にからませて食べる。
一味唐辛子をかける人も居る。
主に福岡県・大分県で食べられる。

もち米を使うが搗かないもの

桜餅(道明寺)

もち米を蒸してから乾燥し、軽く砕いた道明寺粉で作る餡入りの餅で、塩漬けした桜の葉で包む。

羽二重餅、走井餅

砂糖や水飴を加えて練った柔らかい餅。

ムーチー(鬼餅)

水で練ったもち粉をゲットウ(さんにん)の葉で包んで蒸した沖縄県の餅。

日本の粽

ササの葉で巻かれた餅(中国の粽はおこわの一種)。

トック

韓国の餅の一種。
もち米粉を練って、押し出し方式で作る。

煎餅(せんべい、いりもち)

練って作った餅を薄く成形して天日で乾燥させ、焼いて醤油等を塗ったもの。

白玉

ふところ餅

うるち米を使うもの

五平餅(五兵衛餅、御幣餅、吾平餅)

うるち米の餅を板に付け火であぶり、味噌が塗られている餅。

月見団子

ピンポン玉程度の大きさの丸餅をピラミッド状の三角錐に積み、月に供えてから食べる。

串団子

一口で食べられる大きさの団子状に成形した丸餅数個を串に刺したものを食べる。
生のまま又は焼いたものに醤油・砂糖・片栗粉で作った甘辛いタレを搦めたみたらし団子(御手洗串団子)や小豆・枝豆などのつぶ餡や漉し餡を付けて食べる。
醤油を塗って焼いた串団子に海苔を巻いたものを磯辺団子と言う。

牛蒡餅

うるち米の餅と黒砂糖などを混ぜて芥子をまぶした餅。

草餅

餅とあるが材料はうるち米、のびずに歯切れのよい食感を味わう、小豆つぶしあん。

柏餅
草餅と同じでうるち米、米の香りを楽しむため、小豆こしあんが基本。

でん粉を用いるもの

葛餅

クズのデンプンや、代用品としてのジャガイモでん粉などを用いる。

蕨餅

ワラビのでん粉を用いる。

蘇鉄餅

ソテツのでん粉を用いる。

小麦粉を用いるもの

焼皮桜餅(長命寺)

小麦粉に寒梅粉(もち米の加工品)を加えて、鉄板で焼いた皮(煎餅の一種)で餡を挟み、塩漬けした桜の葉で包む。

その他の材料のもの

木の実などの灰汁(あく)を抜くために数日間から一週間程度水に晒した後、粉状にして蒸して搗いたものなど。
栃餅(とちもち)・藁餅など。

おもなつき餅料理

焼き餅

雑煮

汁粉・おしるこ

小豆を煮た汁の中に餅を入れたもの。
前記の鏡開きのときに食べる。

大福・餡餅(あん餅)

餅の中に具として餡を入れて包んだもの。
餅を搗く時に豆を入れたものは豆大福餅と呼ぶ。
餅が柔らかいうちはそのまま、固くなった場合は焼いたり油で揚げて食べる。

啜り餅(すすりもち)

水気を多く入れて柔らかく搗いた餅を水を張った盥(たらい)等に入れて、手で細長く紐状にしてすすりながら食べるが、慣れないと危険。

小袖餅

宇土餅

炒年糕

上海料理

凍み餅

高野豆腐のように寒中に干した餅。
草餅が使われることが多く色は緑色。
保存食やみやげ物として使われる。

その他

砂糖を加えて搗いた餅は寒中でもすっかり硬くはならないので、昔は猟師や登山者の食料として重宝された。

伝統的な臼と杵を使用した餅つきを表す修辞技法はペッタン、あるいはペッタンコ。

飲み込む力の低下した高齢者がのどに詰まらせる事故が高齢化社会の進行とともに増えている。
正月三が日においては必ずこれを原因としたレスキュー車の出動があるといわれている(餅をのどから取り出すのはきわめて難しいため、救急車ではなくレスキュー隊が駆けつける)。
喉詰まりを起こした老人の口に掃除機のホースを突っ込んで吸い出したところ一命を取り留めたという事例がある。
この方法は衛生的ではないが、生命には代えられないため、最終手段として用いるべきである()。

餅を気道に詰まらせることによる窒息死で、毎年多数の死者を出していると言われている。
年間の詳しい死者数は不明であるが、厚労省の調査では、2006年中に食品を原因とする窒息で救命救急センターなどに搬送された事例は、把握できた計803件のうち、餅は168件に上った。
また、1996年1月の1ヵ月間だけで208人死んでいるという説もある。

製造業

越後製菓株式会社、佐藤食品工業 (新潟県)株式会社、株式会社きむら食品、東京もち株式会社、伊達本舗、株式会社赤福餅、御福餅、株式会社ハタダ、伸光製菓株式会社、城北麺工株式会社 などの会社により製造出荷されている。

[English Translation]