空蝉(源氏物語) (Utsusemi (The Tale of Genji))

空蝉(うつせみ)とは、カメムシ目の昆虫であるセミの羽化時の脱皮殻のこと。

『源氏物語』五十四帖の巻の一つ。
第3帖。

『源氏物語』に登場する女性の一人に対する通称。
十代の頃の光源氏が知り合い、影響を受けた女性たちの一人である。
名前の由来は、求愛に対して一枚の着物を残し逃げ去ったことを、源氏がセミの抜け殻によそえて送った和歌から。
主だった登場は「帚木」「空蝉」「関屋」の3巻のみ。

あらすじ
空蝉を忘れられない源氏は、彼女のつれないあしらいにも却って思いが募り、再び紀伊守邸へ忍んで行った。
そこで継娘(軒端荻)と碁を打ち合う空蝉の姿を覗き見し、決して美女ではないもののたしなみ深い空蝉をやはり魅力的だと改めて心惹かれる。
しかし源氏の訪れを察した空蝉は薄衣一枚を脱ぎ捨てて逃げ去ってしまう。
心ならずも後に残された軒端荻と契った源氏はその薄衣を代わりに持ち帰った。
源氏は女の抜け殻のような衣にことよせて空蝉へ歌を送り、空蝉も源氏の愛を受けられない己の境遇のつたなさを密かに嘆いた。

境遇

中級貴族の娘として生まれ育ち、宮仕えを希望したこともあったが、伊予の介(伊予国(現在の愛媛県)の国守の次官)を務める男の元に年の離れた後妻として嫁いだ。
当時、女性の地位は父か夫の位に順ずるので、彼女は貴族としては中級の身分であり、上流中の上流の源氏とは身分がつりあわなかった。

作中に伊予介の娘(軒端荻)が登場するが、前妻の娘であった彼女と空蝉はほとんど同年輩と言う、かなりの年の差結婚である。

夫との間に子供は出来なかったようで、年の離れた幼い弟(小君)を一人手元に置いて我が子のように養育していた。
この子は後に源氏に仕えて、夫との死別の後はその縁と言う触れ込みで源氏に引き取られた。

生涯

空蝉は後ろ盾となる父を早くに亡くし、後妻を探していた伊予の介の元に妻として引き取られて、地味で堅実な生活を送っていた。
あるとき、彼女の噂を聞いていたことから方違先で興味本位に忍んできた源氏と情を通じてしまう。
魅力的な源氏の求愛に惹かれ悩みながらも、身分が釣り合わない立場であることを理解していた。
逢瀬の後はいくら掻き口説かれても靡こうとはせず、その後夫に従って京を離れた。

皮肉にも、驕慢な貴公子であった源氏にとって、空蝉の拒絶が彼女を忘れられない存在にした。
源氏は彼女の弟を手元に引き取り、後には尼となった彼女を二条東院に迎えて住まわせることとなる。

人物

控えめで、容貌も非常に地味な女性であったが、小柄で立ち振る舞いが水際立っており趣味も良かった。
求愛に対しても、悩み迷いながらも最後まで品良く矜持を守り通し、貴公子である源氏を感心させている。

彼女のモデルに関しては、境遇や身分が似ているため、作者である紫式部自身がモデルではないかと言われている。

[English Translation]