雲隠 (Kumogakure)

雲隠(くもがくれ)とは『源氏物語』五十四帖の巻名のひとつ。

概要
『源氏物語』の巻の一つ。
巻名だけが伝えられ、本文は伝存しない。
もともと巻名だけで本文は書かれなかったとする説と、本文はあったが紛失したとする説がある。

本巻の前巻である「幻 (源氏物語)」から次巻である「匂宮」までは8年間の時間が経過している。

この間に光源氏が出家して嵯峨野に隠棲し、二・三年後に死去したことが「宿木」に記されている。
またこの間に太政大臣まで出世した後引退し、致仕の大臣と呼ばれていた頭中将や太政大臣まで出世した髭黒も死去している。
源氏物語の作品世界では大きく世代交代が行われている。

『源氏物語』の54帖を数えるときにこの「雲隠」を含める数え方と含めない数え方とがある。
「雲隠」を含めないときには中身の多い「若菜 (源氏物語)」を上下に分けて2帖に数える。
いずれの場合にも『源氏物語』は全54帖になるようになっている。
「雲隠」を含める数え方は中世以前に多く、含めない数え方は近世以後に多い。

古注釈での言及

たとえば、『源氏釈』(12世紀)には「雲隠」を「廿六」とし、また、『白造紙』(1200年頃)の「源ジノモクロク」には「廿六クモカクレ」とある。
一方、『異本紫明抄』は「光源氏物語巻廿六雲隠もとよりなし」とし、「為氏本源氏物語古系図」付載「源氏目録」に雲隠巻は無い。
『原中最秘抄』には「雲隠は幻の次なり 然に根本より此巻なし 然ば ふるき目録にも本よりなしとかきたり 多の有識才翰の人々に尋申侍りしにも全分不二覚悟一」(一、二は返り点)とある。

古注(『原中最秘抄』)にはこの巻には光源氏の死が描かれており、これを読んだ者たちが世をはかなんで次々と出家してしまったため時の天皇の命により内容を封印してしまった、焚書処分にしたとする伝承が記録されている。

また古注の一つである『紫明抄』には、この巻の内容はどこかに密かに残されているとの伝承が伝えられている。

補作
この部分を補うための補作がいくつか書かれている。

「雲隠六帖」(室町時代ころの作、作者不詳)全六帖。
第一の雲隠の帖において源氏の出家失踪を語る。

「Le dernier amour du prince Genghi」(日本語題「源氏の君の最後の恋」) フランス人小説家マルグリット・ユルスナールが1938年に書いた短編集『Nouvelles orientales』(日本語訳『東方綺譚』多田智満子訳、白水社〈白水Uブックス〉、1984年、ISBN 4560070695)に収録。
光源氏がかつて愛した女性に看取られつつ死を迎える。

「あさきゆめみし」(大和和紀)第一部の最後で、源氏の出家と死が語られる。

[English Translation]